マリッシュで知り合った女性と、しばらくやり取りを続けていたことがある。
最初は当然、サイトの中だけの関係だった。
プロフィールを見る。
メッセージを送る。
返信が来る。
仕事の話をしたり、休日の過ごし方を聞いたりする。
マッチングサイトではよくある始まりだった。
そこから実際に会うことになり、何度か話すうちに少しずつ距離が近くなっていった。
そして交際するようになった彼女との時間で、今でも妙に覚えていることがある。
親密な時間を過ごしていたとき、彼女が、
「Kさん、Kさん」
と、何度も自分の名前を呼んだことだ。
行為そのものより、なぜかその声のほうが記憶に残った。
今回はマリッシュで知り合った彼女との、そのときのことを書いてみたい。
最初はサイト上の知らない二人だった
考えてみれば不思議だ。
少し前まで、お互いの存在すら知らなかった。
マリッシュを使っていなければ、一生会わなかった可能性もある。
住んでいる場所も違う。
生活も違う。
仕事も違う。
そんな二人がスマートフォンの画面をきっかけに知り合う。
最初のメッセージでは、当然ながら距離がある。
「はじめまして」
「よろしくお願いします」
そんなところから始まる。
相手がどんな人なのか分からないから、こちらも慎重になる。
女性側も同じだったと思う。
メッセージから現実の人になる
やり取りが続くと、少しずつ相手の生活が見えてくる。
今日は仕事だった。
明日は休み。
こんなものを食べた。
最近こんなことがあった。
何気ない話が増えてくる。
そして実際に会う。
待ち合わせ場所へ現れた瞬間、それまでプロフィール写真と文章だった女性が「現実の人」になる。
ネットで知り合った相手と初めて会うときには、独特の緊張がある。
写真と同じだろうか。
話が続くだろうか。
相手は自分をどう思うだろうか。
それでも話しているうちに、サイトで知り合ったという感覚は少しずつ薄れていった。
「Kさん」と呼ばれるようになった
最初のころは、名前の呼び方にも距離があった。
ネット上のニックネームで呼ぶこともある。
名前を知ったあとでも、すぐには自然に呼べないこともある。
ところが関係が近くなってくると、名前で呼ばれることが増えていった。
たったそれだけなのだが、名前には不思議な力がある。
「ねえ」
と言われるのと、
「Kさん」
と言われるのでは少し違う。
自分に向けて言われていることが、よりはっきりする。
親密な時間に何度も名前を呼ばれた
彼女とさらに親しくなり、二人だけで親密な時間を過ごすようになった。
お互い成人で、双方が望んだ関係だった。
そのときだった。
彼女が、
「Kさん」
と呼んだ。
一度ではなかった。
「Kさん、Kさん」
と何度も繰り返した。
その場では深く考えていなかった。
ただ、後になって妙に思い出した。
なぜあれほど名前を呼んでいたのだろう。
そして、なぜ自分はそれを今でも覚えているのだろう。
名前を呼ばれるとうれしかった
結局、単純にうれしかったのだと思う。
好きな相手から自分の名前を呼ばれる。
しかも二人だけの親密な時間に、何度も呼ばれる。
そこには普段の会話とは違う感覚があった。
「この人は今、自分を意識している」
そう感じられた。
もちろん、名前を何度も呼んだからといって、それだけで相手の気持ちすべてを判断することはできない。
人によって表現の仕方は違う。
名前をよく呼ぶ人もいれば、ほとんど呼ばない人もいる。
それでも、その瞬間の自分にとっては印象的だった。
出会い系では「本当に好かれているのか」が気になる
マッチングサイトで知り合った関係では、ときどき不安になる。
本当に自分に興味があるのか。
他にもたくさんの男性と話しているのではないか。
自分との関係をどう考えているのか。
サイトには次々と別のプロフィールが表示される。
だから、最初のころは相手との関係に確信を持ちにくい。
しかし、サイトを離れて実際に会う回数が増えると関係は変わっていく。
サイト上の一人ではなくなる。
「マリッシュで知り合った女性」から、
「自分が実際に付き合っている彼女」
になっていく。
自分の場合、その変化を象徴していた一つが名前だったのかもしれない。
ただし名前を呼ぶ=愛情確定ではない
ここは冷静に考えたい。
恋愛をしていると、小さな行動に意味を求めてしまう。
名前をたくさん呼んでくれた。
返信が早かった。
ハートマークが付いていた。
向こうから会いたいと言ってきた。
もちろん好意の表れである場合もある。
しかし、一つの行動だけで相手の気持ちを断定することはできない。
重要なのは、その後の関係も含めて見ることだと思う。
普段から大切にしてくれるか。
こちらの話を聞いてくれるか。
嫌なことを無理に求めてこないか。
会っていないときにもコミュニケーションが続くか。
そして自分自身も相手を尊重できているか。
そうした積み重ねのほうが、名前を何回呼んだかより重要だ。
マッチングサイトから始まっても恋愛は現実になる
マリッシュで知り合ったというと、
「ネットの出会い」
という印象が強い。
でも、出会った後までネットの世界にいるわけではない。
カフェで話せば普通の男女だ。
一緒に食事をすれば普通のデートになる。
好きになれば普通に相手からの連絡が気になる。
会えなければ寂しくなる。
そして関係が深くなれば、二人だけの時間も生まれる。
入口がマッチングサイトだっただけで、そこから先の感情まで「ネット上のもの」ではない。
大切なのはお互いの気持ち
親密な関係になるときほど、お互いの意思を確認することは大切だと思う。
サイトで知り合ったから。
何度もデートしたから。
付き合っているから。
それだけで相手が何でも望んでいるとは限らない。
その日の気持ちもある。
嫌なこともある。
途中で気持ちが変わることもある。
これは男女どちらにも言える。
親しくなったからこそ、相手の意思や境界線を尊重する。
その安心感があって初めて、二人の距離も自然に縮まっていくのだと思う。
今でも声だけは覚えている
時間が経つと、恋愛の細かい場面は少しずつ忘れていく。
どんな服だったか。
何時だったか。
その日に何を食べたか。
そんなことは曖昧になっていく。
ところが、不思議と短い言葉だけ残ることがある。
自分の場合は、
「Kさん、Kさん」
だった。
マリッシュのプロフィール画面を見ていたころには、そんな関係になるとは想像していなかった。
最初は一通のメッセージ。
それが会話になり、実際に会い、彼女になり、自分の名前を何度も呼ぶほど距離が近くなった。
マッチングサイトを使っていて面白いと思うのは、こういうところだ。
画面上では無数のプロフィールの一つに見える。
しかし、その一人と本当に関係ができれば、その人はもう「サイトにいた女性」ではなくなる。
自分の記憶の中に残る、一人の人になる。
名前を呼ばれた記憶が残った理由
振り返ってみると、特別だったのは親密な行為そのものではなかったのかもしれない。
自分の名前を何度も呼んでくれたこと。
そこに、自分は二人の距離の近さを感じたのだと思う。
出会い系やマッチングサイトでは、つい「何人とマッチした」「何人と会えた」と数字で考えてしまう。
でも後から残る記憶は、数字ではない。
一緒に笑ったこと。
何気なく言われた一言。
別れ際の表情。
そして、自分の名前を呼んでくれた声。
マリッシュで知り合った彼女とのことを思い出すとき、自分の中に最も鮮明に残っているものの一つがそれだった。
ネットから始まった出会いでも、人と人との距離が本当に近くなった瞬間は、案外こんな短い言葉の中に残るのかもしれない。


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