出会い系サイトで女性と会う約束が決まると、私はうれしかった。
メッセージを何度も送り、少しずつやり取りを続け、ようやく実際に会える。
「やっと会える」
そう思う。
しかし、待ち合わせの日が近づいてくると、別の不安が出てきた。
何を話せばいいのだろう。
私はこれまで10年以上、出会い系サイトを利用してきた。
ハッピーメールをはじめ、いくつものサイトやマッチングサービスを利用した。
実際に女性と会ったこともある。
それでも、初対面の女性との会話にはなかなか慣れなかった。
メッセージでは普通に話せる。
しかし、実際に女性が目の前に座ると、突然言葉が出てこなくなる。
今回は、そんな私の出会い系サイトでの初対面の会話について書いてみたい。
メッセージでは普通に話せていた
会う前は、それなりに会話が続いていた。
「今日は仕事でしたか?」
「休みの日は何をしていますか?」
「どんな食べ物が好きですか?」
メッセージなら質問を考える時間がある。
相手から返信が来ても、すぐに返す必要はない。
私はスマートフォンの画面を見ながら、
「何て返そうかな」
と考えることができた。
一度文章を入力する。
少し読み返す。
なんとなく変だと思ったら削除する。
そして、別の文章を書く。
メッセージには考える時間があった。
だから私は、自分ではそれなりに普通の会話ができていると思っていた。
女性から返信も来る。
数日間やり取りが続く。
場合によっては数週間続く。
そうすると私は、
「この女性とは話が合うのかもしれない」
と思うようになる。
しかし、実際に会ってみると違った。
画面の中の会話と、目の前にいる人との会話は、まったく別物だった。
待ち合わせ場所では話題より相手を探すことで精いっぱい
待ち合わせの日。
私は少し早めに到着することが多かった。
駅前。
コンビニ。
本屋の駐車場。
ファミレスの入口。
これまで、いろいろな場所で女性と待ち合わせをした。
約束の時間が近づくと、私は周囲を見る。
女性が歩いてくる。
「この人かな?」
違う。
また女性が来る。
「もしかして」
やはり違う。
スマートフォンを確認する。
連絡はない。
私はこの時間が苦手だった。
相手が本当に来るのか不安になる。
写真と同じ女性を見つけられるのかも心配になる。
そして彼女が現れる。
「こんにちは」
最初の一言は言える。
問題は、その次だった。
「……」
何を話せばいい?
私は突然分からなくなった。
「今日は暑いですね」で始まったこともある
初対面の女性との会話で、私は天気の話をしたことが何度もある。
「今日は暑いですね」
「寒くなりましたね」
今考えると、本当に普通の会話だ。
しかし、当時の私には、それくらいしか思いつかなかった。
女性も、
「そうですね」
と答える。
そして会話が終わる。
私は心の中で焦る。
次は何だ。
仕事?
趣味?
出会い系サイトの話?
いきなり恋愛の話をするのは早いか?
頭の中ではいろいろ考えている。
しかし、考えれば考えるほど言葉が出なくなる。
沈黙が数秒続く。
おそらく実際には短い時間だったと思う。
それでも私には、一分くらい沈黙しているように感じられた。
女性の反応を気にしすぎていた
私が会話に困った理由の一つは、女性の反応を気にしすぎていたからだと思う。
この質問をしたら嫌われないか。
つまらない男だと思われないか。
変な人だと思われないか。
私は無意識に考えていた。
女性が少し無表情になる。
「今の話、つまらなかったかな」
女性がスマートフォンを見る。
「帰りたいのかな」
女性の返事が短い。
「自分に興味がないのかもしれない」
今振り返ると、かなり勝手な想像だった。
単純に緊張していただけかもしれない。
仕事で疲れていた可能性もある。
スマートフォンに連絡が来ただけかもしれない。
しかし私は、女性の小さな行動をすべて自分への評価だと考えていた。
だから余計に話せなくなった。
面白いことを言わなければいけないと思っていた
私は初対面の女性を楽しませなければいけないと思っていた。
面白い話をする。
女性を笑わせる。
会話を途切れさせない。
男性側がリードする。
そんなイメージを持っていた。
だから、沈黙すると失敗した気分になった。
「何か話さないと」
そう思う。
しかし、面白い話は簡単には出てこない。
私は芸人ではない。
毎日、女性を笑わせるためのネタを考えているわけでもない。
それなのに初対面の女性を目の前にすると、
「面白い男にならなければ」
と思っていた。
今考えると、自分で自分にかなり高いハードルを設定していた。
普通に話せばよかった。
しかし当時は、その「普通」が分からなかった。
仕事の話をして失敗したと思った日
困った私は、仕事の話をすることがあった。
「どんな仕事をしているんですか?」
女性が答える。
私はさらに質問する。
「忙しいですか?」
「何時くらいに終わるんですか?」
「休みは土日ですか?」
質問。
質問。
また質問。
あるとき私は、会話の途中で気づいた。
これは面接ではないか。
私は女性とデートをしている。
しかし、やっていることは採用面接のようだった。
女性が答える。
私が質問する。
女性が答える。
また私が質問する。
会話ではなく、情報収集になっていた。
私は焦った。
「自分の話もしないと」
今度は自分の仕事について話し始める。
しかし、ITの仕事について細かく話しても、相手が興味を持つとは限らない。
私は自分でも、
「この話、面白いのか?」
と思いながら話していた。
当然、さらに緊張した。
趣味を聞いても会話が広がらなかった
「趣味は何ですか?」
これは初対面の定番質問だと思う。
私も何度も聞いた。
「映画です」
女性が答える。
ここで映画に詳しければ話を広げられる。
しかし私は、その女性が好きな映画を知らない。
「へえ、そうなんですね」
終了。
別の女性に聞く。
「旅行かな」
「どこに行きました?」
「北海道」
「いいですね」
終了。
私は会話を広げることが苦手だった。
質問そのものはできる。
しかし、相手の答えから次の話題につなげることができなかった。
だから質問を次々に変える。
仕事。
趣味。
食べ物。
休日。
気がつけば、プロフィール項目を上から確認しているような会話になっていた。
本当は相手の言葉をもっと聞けばよかった
今なら少し分かる。
新しい質問を考える必要はなかった。
相手が言った言葉を、もう少し聞けばよかったのだ。
「旅行が好きです」
と言われたら、
「北海道のどこが一番よかったですか?」
と聞けばいい。
「ラーメンが好き」
と言われたら、
「醤油と味噌ならどっちが好きですか?」
でもいい。
難しい質問はいらない。
相手の言葉の中に、次の話題はあった。
しかし当時の私は、
「次の質問を考えなければ」
と思っていた。
その結果、相手の話を十分に聞いていなかったのかもしれない。
会話が上手な人は、話題を100個持っている人ではない。
一つの話題を自然に広げられる人なのではないか。
出会い系サイトを長く利用した後、私はそんなことを考えるようになった。
カフェに入ると少しだけ話せるようになった
待ち合わせ直後は緊張していた私も、カフェに入ると少し落ち着くことがあった。
理由は分からない。
おそらく、座る場所が決まるからだと思う。
待ち合わせ場所では、立っている。
次にどこへ行くのか考える。
歩く方向も決めなければならない。
しかしカフェでは席に座る。
飲み物を注文する。
コーヒーが来る。
それだけで時間が流れる。
会話が少し止まっても、コーヒーを飲めばいい。
メニューを見ることもできる。
私はカフェという場所に助けられていた。
だから初対面の女性とは、カフェに行くことが多かった。
おしゃれな店である必要はなかった。
チェーン店でもいい。
むしろ私は、入り慣れた店のほうが安心した。
自分が落ち着けば、少しだけ会話も自然になる。
女性も緊張していたのかもしれない
当時の私は、自分の緊張ばかり考えていた。
しかし今考えると、女性も緊張していた可能性がある。
出会い系サイトで知り合った男性と初めて会う。
相手がどんな人なのか完全には分からない。
プロフィールと違う人かもしれない。
強引な男性かもしれない。
女性側にも不安はあったはずだ。
それなのに私は、
「自分が面白い話をしなければ」
とばかり考えていた。
もしかすると必要だったのは、面白さではなかった。
安心して普通に話せる雰囲気だったのかもしれない。
「来るまで迷いませんでした?」
「この店、初めてですか?」
「今日は仕事休みだったんですか?」
それくらいでよかった。
最初から人生観を語る必要はない。
恋愛観を聞く必要もない。
まずは目の前の状況について話す。
私はもっと簡単に考えればよかった。
沈黙を怖がりすぎていた
初対面の頃、私は沈黙が怖かった。
三秒。
五秒。
会話が止まる。
私は焦る。
「何か言わないと」
そして、よく分からない話題を出す。
結果として、さらに会話が不自然になる。
今なら、少しくらい沈黙してもいいと思う。
コーヒーを飲む。
外を見る。
料理を食べる。
そして何か思いついたら話す。
ずっと話し続ける必要はない。
しかし出会い系サイトで初めて会った女性の場合、
「沈黙=失敗」
だと私は考えていた。
二回目のデートがなくなる。
嫌われる。
つまらない男だと思われる。
そんな不安があった。
だから無理に話した。
今振り返ると、私が一番会話を難しくしていたのは、自分自身だったのかもしれない。
何人と会っても完全には慣れなかった
出会い系サイトを長く利用すると、初対面に慣れると思う人もいるかもしれない。
私の場合、完全には慣れなかった。
確かに最初の頃よりは話せるようになった。
待ち合わせ場所も選べるようになった。
カフェの入り方も分かる。
女性との距離感も少しは考えられるようになった。
しかし、初対面は初対面だ。
相手が変われば、会話も変わる。
よく話す女性。
静かな女性。
質問してくれる女性。
ほとんど質問しない女性。
笑う女性。
表情があまり変わらない女性。
同じ会話方法が全員に通用するわけではなかった。
だから私は何人と会っても、
「今日は何を話そう」
と考えていた。
出会い系サイト歴10年以上でも会話の正解は分からない
私は出会い系サイトを10年以上利用してきた。
それでも、初対面の女性との会話に正解があるとは思っていない。
恋愛マニュアルには、
「女性の話を聞きましょう」
「共感しましょう」
「質問しましょう」
と書かれている。
確かに間違いではないと思う。
しかし実際の人間は、マニュアル通りではない。
話を聞いてほしい女性もいる。
自分から質問したい女性もいる。
静かな時間が好きな女性もいる。
最初からよく話す女性もいる。
結局、目の前の相手を見るしかない。
私はそれに気づくまで、かなり時間がかかった。
今なら最初に何を話すだろう
もし今、出会い系サイトで知り合った女性と初めて会うなら、私は何を話すだろう。
おそらく、難しい話はしない。
「無事に着きました?」
「この辺、よく来ます?」
「何か飲みます?」
そんな話から始めると思う。
そして相手が話したことを少しだけ深く聞く。
無理に笑わせようとしない。
沈黙しても焦らない。
自分を良く見せようとしすぎない。
昔の私に言えるなら、
「そんなに話題を用意しなくていい」
と言いたい。
初対面の女性を目の前にして、私は何度も頭が真っ白になった。
天気の話しかできなかった日もある。
質問ばかりして面接のようになった日もある。
沈黙が怖くて、どうでもいい話を続けたこともある。
それでも女性と会った。
話した。
二回目のデートにつながったこともあった。
一回で終わったこともあった。
今思えば、それもすべて出会い系サイトを利用していた私の経験だ。
初対面の女性と何を話せばいいのか分からなかった。
10年以上利用しても、完全な答えは見つからなかった。
ただ一つ分かったことがある。
会話は、完璧にするものではない。
目の前にいる相手と、少しずつ作っていくものだった。
私はそのことに気づくまで、ずいぶん長い時間がかかった。


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