久しぶりに、秩父へ向かった
その日、
なぜ急に秩父へ行こうと思ったのか、
自分でもよく分からない。
でも、
たまにある。
昔会った人を、
急に思い出す日。
季節。
空気。
匂い。
音楽。
何かのきっかけで、
記憶が戻ってくる。
その女性は、
昔Pairsで知り合った人だった。
あの頃は、まだ少し未来を期待していた
メッセージして、
実際に会って、
何度か話した。
特別ドラマみたいな恋愛ではない。
でも、
静かな安心感があった。
秩父という場所も、
少し独特だった。
東京とは空気が違う。
時間がゆっくり流れている感じがある。
だからなのか、
記憶に残っていた。
電車に揺られながら、昔を思い出していた
移動中、
昔のやり取りを思い出していた。
LINE。
待ち合わせ。
会話。
駅前。
コンビニ。
小さな記憶。
人間って不思議だ。
大恋愛じゃなくても、
なぜか残る人がいる。
逆に、
強烈だったのに、
ほとんど忘れてる人もいる。
「まだ住んでるのかな」と思った
正直、
会えるとは思っていなかった。
連絡もしていない。
かなり時間も経っている。
でも、
“あの部屋”
がまだ存在してる気がしていた。
人は、
記憶の中の場所を、
勝手に固定してしまう。
時間が止まってるみたいに。
街の空気が少し変わっていた
秩父へ着く。
少し懐かしい。
でも、
前と少し違う。
店が変わってる。
看板が変わってる。
空気も少し違う。
時間は、
ちゃんと流れていた。
自分だけが、
昔を見ていたのかもしれない。
あのアパートへ向かった
なんとなく道を覚えていた。
完全じゃない。
でも、
身体が覚えてる感じだった。
人間って、
感情が強かった場所は、
妙に記憶に残る。
曲がり角。
坂道。
自販機。
駐車場。
少しずつ思い出しながら歩いた。
そして、違和感があった
着いた瞬間、
少しだけ違和感があった。
郵便受け。
表札。
空気。
「あれ?」
と思った。
前と違う。
静かすぎる。
もう、そこにはいなかった
部屋を見る。
知らない名前。
カーテンも違う。
生活感も違う。
たぶん、
引っ越していた。
その瞬間、
少しだけ現実感が薄くなった。
「そりゃそうか」と思った
冷静に考えれば当然だ。
時間は経っている。
人は動く。
引っ越す。
恋愛も終わる。
生活も変わる。
でも、
人間の感情だけは、
時々昔に残る。
会いたかったのか、自分でも分からない
面白いのは、
本当に会いたかったのか、
自分でもよく分からないことだ。
たぶん、
確認したかった。
「あの頃は存在した」
それを。
人は、“過去の感情”を見に行くことがある
たぶん、
今回見に行ったのは、
女性本人というより、
“あの頃の自分”
だった。
Pairsを開いていた頃。
未来を期待していた頃。
まだ、
恋愛へ希望を持っていた頃。
そういう時間。
マッチングアプリの恋愛は、街に記憶が残る
不思議だけど、
アプリ恋愛って、
場所の記憶が強い。
駅。
カフェ。
住宅街。
コンビニ。
全部、
感情とセットになる。
だから、
何年後かに同じ場所へ行くと、
急に記憶が戻る。
もし会えていたら、何を話したんだろう
少し考えた。
もし偶然会えていたら、
何を話したんだろう。
元気?
今なにしてる?
結婚した?
そんな普通の会話かもしれない。
でも、
たぶん本当に聞きたかったのは、
別のことだ。
「あの時間、本当に存在してたよね」
それだった気がする。
人は、“終わった恋愛”を完全には消せない
恋愛って、
終わる。
連絡も消える。
LINEも止まる。
会わなくなる。
でも、
完全には消えない。
特に、
静かな恋愛ほど、
長く残る。
秩父の夕方が少し綺麗だった
帰り道。
空が少し赤かった。
静かな街だった。
観光地なのに、
どこか孤独感がある。
それが、
少し好きだった。
人生は、“会えなかった人”でも出来ている
最近思う。
人生って、
会えた人だけじゃなく、
“会えなかった人”
でも出来ている。
途中で終わった人。
連絡が消えた人。
引っ越した人。
もう会わない人。
そういう人たちも、
静かに人生へ残っている。
あの部屋だけが、時間の外へ行った気がした
帰る前、
もう一回だけ振り返った。
当然だけど、
もう知らない部屋だった。
でも、
自分の記憶の中では、
まだ少しだけ、
あの頃のままだった。
たぶん、
人間って、
そうやって生きてる。
更新される現実と、
止まったままの感情。
その両方を抱えながら。


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