大学2年の春、キャンパスの新緑が綺麗な季節。私は文系のゼミに所属していたが、運動部ではなくごく普通の帰宅部だった。そんなある日、ゼミ室でレポートの話になり一息ついていた時のことだ。普段あまり話さない女の子が、突然こちらに歩み寄ってきた。
「〇〇君って、柔道部だったっけ?」
周りの空気がふっと止まったような感覚。予想外の質問すぎて、返事が一瞬遅れた。私は運動は嫌いじゃないが、正式な部活には入っていない。けれど彼女は、少し興味深そうな目でこちらを見ていた。その視線に、思わず心臓がどきりと跳ねた。
「いや、柔道部じゃないよ。体育でちょっとやったことがあるくらい。」
そう答えると、彼女は小さく笑った。
「そっか!なんか、雰囲気がそれっぽくて。」
雰囲気が柔道部っぽいとはどんな意味だったのか。がっしりしてる?真面目そう?それとも、強そうに見えた…?考えれば考えるほど分からない。でも、その瞬間の私は、ただ嬉しかった。なぜなら、今まで名前すら曖昧にされていたのに、彼女の中で私はちゃんと存在していたから。
その後、柔道の話から大学の部活、サークル、好きな授業へと会話は意外にも弾んだ。彼女はバドミントンサークルに所属していて、週に2回ほど活動しているらしい。笑うときの表情が柔らかくて、話すたびに距離が少しずつ縮まっていく感覚があった。
気づけばゼミ室にいた他の人達の声も遠く感じ、時間がゆっくり流れていた。こんな自然な会話ができる相手は久しぶりだった。
ただ、それ以上の関係には発展しなかった。勇気がなく、連絡先を交換するきっかけも作れなかった。今なら「今度一緒にバドミントン見に行ってもいい?」と一言言えたかもしれない。でも当時の私は、失敗するのが怖くて言葉が喉で止まった。
それでも、あの時の会話は今でも鮮明に覚えている。
出会いは、隣の席の何気ない一言から始まることもある。
恋に発展しなくても、心に残る出会いは確かにある。
もし同じように気になる人がいるなら、勇気を出して話しかけてみてほしい。もしかすると、柔道部と間違われるくらいの小さなきっかけが、大きな物語に変わるかもしれないのだから。


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