マリッシュで出会った彼女は「ピアノ教えています」と言っていた。
プロフィール写真は柔らかな笑顔で、鍵盤の上に手を添えている横顔。
その雰囲気に惹かれて、自然とメッセージのやりとりも長くなった。
初めて会ったのは、中野の落ち着いたカフェ。
会話はぎこちなさもあったけど、彼女が時々見せる“間”の取り方が心地よかった。
ピアノを教えているだけあって、言葉にリズムがある。
こちらの話を遮らず、そっと待ってくれる。
「この人となら、もう一度会いたい」と素直に思えた。
初デートの帰り際、彼女は笑って言った。
「また会えたら嬉しいです」
その一言に期待しすぎたのかもしれない。
メッセージは続いた。
返信も早い。
質問にもきちんと答えてくれる。
社交辞令ではなく、ちゃんと向き合ってくれている気がした。
だからこそ、2回目の日程がなかなか決まらないことに戸惑った。
誘えばやんわりと断られるわけではない。
「その日は仕事が…」
「週末はレッスンが重なってて…」
「ごめんね、また改めて連絡するね」
会いたい気持ちは伝わってくるのに、予定だけがすれ違う。
「脈なしではないはず」と思う反面、「本当に時間がないだけ?」という不安もよぎる。
アプリではよくある現象だ。
仕事が忙しい、家の事情、体調、メンタル、同時並行の相手――
理由は無数にある。
それでも、初デートが良かった相手ほど気持ちは揺れる。
2回目に進めそうで進めない。
その距離が一番つらい。
ある夜、思い切って送ってみた。
「無理のない範囲でいいので、また会えたら嬉しいです。
あなたのペースに合わせます。」
そしたら、すぐに既読がつき、
「ありがとう。気持ちは同じです。ただ、もう少し待ってくれる?」
と返ってきた。
それを読んだ瞬間、胸の力がふっと抜けた。
焦っていたのは自分だけだったのかもしれない。
マッチングアプリでは“温度差”が起きやすい。
でも大事なのは、相手がどんな言葉を選ぶか。
彼女のメッセージはいつも丁寧で、逃げるような言い方をしない。
それだけで十分、誠実さは伝わる。
たぶん、2回目は会える。
ただ、それが“今週”なのか“来月”なのかは分からない。
それでも、待つ価値はあると思っている。
初デートの帰り道に見た、彼女の小さな横顔を思い出しながら、
もう少しだけ彼女のペースに合わせてみるつもりだ。


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