初デートの日、僕は朝から落ち着かなかった。
出会い系アプリで出会った女の子と、ついに実際に会う日。
メッセージでやり取りはしていたけれど、会うとなると話は別だ。
服を選び、髪を整え、電車に揺られながら「うまく話せるだろうか」と自問を繰り返した。
籠原駅で待ち合わせ。改札前に立っていると、
ふと横から「こんにちは」と声がした。
振り返ると、明るい色のコートに身を包んだ彼女が立っていた。
写真よりずっと柔らかい印象で、目が合った瞬間、心臓が跳ねた。
「今日はよろしくね」
「う、うん。こちらこそ…」
声が震えていた。
普通に笑顔で返したかったのに、緊張で言葉が続かない。
予定では駅近くのカフェでランチをするつもりだった。
でも歩き出した途端、会話がうまくできない。
頭では話題を探しているのに、言葉にならず喉に引っかかった。
「今日は天気がいいね」と言っただけで精一杯。
彼女も優しく笑ってくれたけれど、間が持たない。
沈黙が痛いほど重く感じた。
カフェの前まで行ったものの、僕はどうしても扉を開けられなかった。
「緊張してて、ごめん。ちょっと落ち着けなくて…」
そう言うと、彼女は少し困ったように、それでも優しく頷いた。
駅まで戻る道、会話は途切れがち。
本当はもっと話したかった。
好きな食べ物も、趣味の話も、
出会う前はたくさん聞きたいことがあったはずなのに、言葉にならなかった。
籠原駅の改札前に戻ると、彼女は言った。
「今日は会えてよかったよ。また話せたらいいね。」
その言葉に胸が締めつけられた。
本当はランチを楽しんで、もっと笑い合って、
思い出に残るデートにしたかった。
でも現実は、緊張でなにもできずに終わってしまった。
電車に乗る彼女の後ろ姿を見送りながら、
情けなさと悔しさで胸がいっぱいになった。
あのとき一歩踏み出せていたら、次に繋がったのだろうか。
何度も頭の中で同じシーンを再生した。
だけど今思えば、あの日の緊張は悪いことじゃなかったのかもしれない。
それだけ彼女に会うことを大切にしていた証拠だ。
失敗したデートも、心の奥で強く残る。
次に誰かと会うときの糧にもなる。
恋はいつも上手くいくわけじゃない。
特に最初の一歩は難しい。
でも、あの日を経験した僕は、少しだけ前に進めた。
勇気を持って会いに行ったこと、それ自体が大きな一歩だったのだ。
もしこれを読んでいる人が初デートに不安を抱えているなら、
緊張しても大丈夫だと言いたい。
沈黙があっても、ぎこちなくても、
その時間は確かに二人で過ごした大切な瞬間だ。
籠原駅で別れたあの日の空気を、僕は今でも覚えている。
会話はうまくできなかったけれど、後悔はしていない。
あの子に会いに行った自分を誇りに思う。
そしていつかまた、
誰かと笑いながらランチできる日が来ることを信じている。


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