好きな女の子と久しぶりに会える日だった。
出会い系アプリで知り合い、何度か会ううちに少しずつ距離が近くなっていた彼女。
この日は「ドライブ行こうよ」という流れになり、少し遠出のデートが実現した。
天気は快晴。窓を少し開けて季節の空気を感じながら走る。
彼女は助手席で、ラジオに合わせて小さく口ずさんでいた。
その横顔がすごく柔らかく見えて、信号待ちの間にこっそり目で追った。
目的地は決めていたわけじゃない。
ただ走りながら見つけたカフェに寄って、昼ごはんを食べて、また走る。
計画よりも、流れで決まる時間が心地よかった。
都会よりゆっくり流れる時間に、ふたりだけの空気ができていた。
道の駅に立ち寄った時、
ソフトクリームを半分こした。
「一口食べてみる?」と言われて渡された瞬間、指と指がふれた。
たったそれだけなのに、心臓が跳ねた。
恋ってこんな小さな瞬間に宿るんだと思った。
夕方、空がオレンジに染まり始めた頃。
楽しい時間ほど、終わりは静かに近づいてくる。
彼女を送り届けるために車を籠原駅へ向けた。
車内の会話は相変わらず穏やかだったけれど、どこか名残惜しさが混じる。
沈黙しても居心地が悪くなくて、それすら大切な時間に思えた。
駅に着くと、彼女はドアを開ける前に少しだけこちらを向いた。
「今日はありがとう。すっごく楽しかったよ。」
その笑顔は、昼間より少し寂しげで、でもあたたかかった。
心の奥で何かがほどけるような、掴めないような感覚。
「また行こうよ。」
勇気を込めて短く言った。
彼女は小さく頷いた。
ロータリーに響く電車のアナウンス。
改札へ向かう後ろ姿は、少し小さく見えた。
赤いテールランプが照らす中、ゆっくり歩く彼女が振り返る。
手を振り返すと、彼女も同じように手を振った。
その瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。
エンジンをかけたけれど、しばらく動けなかった。
走り出したら、今日が終わってしまう気がしたから。
それでも前に進むしかなくて、バックミラーで駅を見ながらゆっくり車を出した。
外は夜風が涼しくて、少しだけ切なかった。
恋は華やかなだけじゃない。
楽しかった日ほど、別れ際が胸に残る。
でも、その余韻が恋を深くする。
次に会いたくなる理由になる。
出会い系から始まった縁でも、画面の向こうの誰かが
いつの間にか、日常の中の特別になる瞬間がある。
ドライブの時間、笑った顔、ソフトクリームの甘さ、別れ際の風。
全部が恋の記憶になる。
もしあなたにも好きな人がいるなら、
言葉足りなくてもいい。
手を繋げなくてもいい。
今日を大切にできたなら、それが恋の第一歩だと思う。
あの日の籠原駅の夜を、僕はきっと忘れない。


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