マリッシュで出会った彼女とのやり取りは、最初からどこか落ち着いていた。派手さはないが、メッセージのテンポが心地よく、返信の言葉にも無理がない。お互いに焦らず、それでも確実に距離が近づいていくような感覚があった。
最初の電話は夜だった。仕事がひと段落した頃に彼女から「少しだけ話せる?」と連絡が来た。声は静かで、落ち着いていて、話すほどに気持ちが穏やかになるタイプだった。恋愛の駆け引きではなく、人として自然に向き合える空気がそこにあった。
数日後、彼女から突然こんなメッセージが届いた。
「もう、他の人とやり取りしてないよ。あなたは?」
少し驚いたが、正直嬉しかった。僕も彼女以外の相手とはほぼ連絡していなかった。気がつけば、彼女とのやり取りが一日の楽しみになっていたからだ。
そして、その次の言葉。
「もし同じ気持ちなら、一緒に退会しない?」
スマホ画面を見つめたまま、胸が一気に熱くなった。
出会い系ではよく聞く言葉かもしれない。でも、彼女が言うと違った。
駆け引きではなく「この人と向き合いたい」という本心に聞こえた。
その夜、僕たちは電話しながら退会画面を開いた。
「ほんとに押すよ? 戻れないよ?」
「いいよ。もう探してないし、あなたがいるから」
少し照れくさそうな彼女の声が、妙にリアルで胸に響いた。
実際、退会ボタンを押した瞬間、心に残ったのは不安よりも期待感だった。
彼女とこれからどんな関係になっていくのか、まだ想像もつかないけれど、確かに一歩前に進んだ気がした。
もちろん、退会したからといって恋人同士になれる保証はない。
それでも、アプリを経由した関係が“ふたりだけの世界”に変わる瞬間の特別感は、他に代えがたいものだった。
今振り返ると、あの「一緒に退会しよう」という提案は、彼女なりの誠意だったのだと思う。
誰かと真剣に向き合いたいという意思表示。
そして僕自身も、それを受け止めたいと思った。
マリッシュは真面目な出会いが多いと言われるけれど、まさか自分がその“真剣な一歩”を踏み出す側になるとは想像していなかった。
恋愛はアプリで始まる時代だ。
でも、アプリを同時に辞める瞬間ほど、“ふたりの物語が始まる”と実感できる時間はないのかもしれない。


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