4つ年上の従姉妹――子どもの頃の俺にとっては、ただの親戚じゃなかった。
少し背が高くて、髪がサラッとしていて、いつも笑うときに目尻が優しく下がる。あの独特の安心感は、母親とも姉とも違う種類のものだった。
俺が小学生の頃、従姉妹はもう中学生。
部活帰りのジャージ姿で俺の家に来ては、宿題を見てくれたり、遊びに付き合ってくれたりした。
特に印象に残っているのは、俺が熱を出して寝ていたとき。タオルで額を冷やしながら、「大丈夫だよ」と何度も優しく声をかけてくれた。
当時は知らなかったけれど、その頃から彼女の中には“看護師”の芽があったのだろう。
高校に進んだ彼女は、勉強と部活の両立で忙しいはずなのに、俺の誕生日には必ずプレゼントをくれた。
「ほら、あんたいつも雑なんだから、ちゃんと大事にしなよ」
そう言いながら、文房具や本を選んで渡してくれた。
4つ年上という年齢差は、当時の俺にとってはまるで“大人”と同じくらいの距離感だった。
ある年の冬、従姉妹は看護学校に進学した。
家族の集まりで白衣を着た写真を見せてくれたとき、胸の奥が少しだけ熱くなったのを覚えている。
「あんたも勉強しなよ。大人になったらやりたいこと、ちゃんと選べるようにね」
その言葉は、今思えば、俺へのエールだった。
従姉妹が看護師として働き始めた頃、俺は大学生になっていた。
久しぶりに再会した彼女は、子どもの頃よりも落ち着きがあって、でも笑ったときの優しさは変わっていなかった。
「夜勤ばっかでさー、大変だけど楽しいよ」と笑う姿に、俺は少しだけ見惚れてしまった。
大人になってから意識し始めた気持ちは、恋なのか、憧れなのか、今でもはっきりしない。
でも昔、俺が熱を出した時に冷やしてくれたタオルの感触や、走って追いかけてくれた優しい声。
その全部が、今の俺の“女性を見る基準”になっている気がする。
恋愛のスタート地点は人それぞれだと思う。
俺の場合、最初に「この人素敵だな」と心を動かされたのは従姉妹だった。
彼女の仕事に対する姿勢、誰に対しても平等で優しいところ、そして家族の前でも気取らない自然体の笑顔。
もちろん、従姉妹との関係は恋に発展したわけではない。
でも、“優しくて強い女性ってこういう人なんだ” という基準を作ってくれたのは、彼女だった。
出会い系で誰かとマッチングしても、
「この人はあの従姉妹みたいに、人の心に寄り添える人だろうか」
そんな無意識の比較をしてしまうことがある。
恋は、始まる相手だけでなく、
“自分にとって何が魅力に見えるのか”を気づかせてくれた人によっても形づくられる。
俺にとって、その原点が従姉妹だった。


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