人はあとになってから気づく感情がある。
あの日、籠原駅で別れた女の子のことも、まさにそうだった。
出会い系アプリで知り合った彼女。
最初は軽いやり取りだったはずが、気づけば毎日メッセージをしていた。
会話のテンポが合って、スタンプの癖がかわいくて、
夜になると返事を待ってしまうほど気になっていった。
そして迎えた初めてのドライブデート。
助手席で窓の外を眺める横顔、
コンビニの駐車場で買ったホットコーヒーを両手で持つ仕草、
僕が冗談を言うと少し遅れて笑うところ。
どれも自然で、見ているだけで心が柔らかくなった。
帰り道、夕焼けのオレンジが車内を照らしていた。
静かな音楽が流れ、僕らはゆっくり話した。
将来のこと、好きな料理、家族の話、
大切な部分を少しずつ開けてくれる感じが嬉しかった。
でも、駅に近づくほど胸が重くなる。
「終わってほしくないな…」
そんな気持ちを飲み込んで、車を籠原駅のロータリーへ止めた。
彼女は降りる前にこちらを向き、
「今日はありがとう。また会えたらいいね」と言った。
その「また」という言葉に救われたような気がした。
けれど、電車のドアが閉まる瞬間、
彼女は小さく手を振り、僕はその姿を目で追った。
電車が動き出すと、胸の奥がきゅっと締め付けられた。
あのさよならが、ただの別れではない気がした。
家に帰ってから、彼女の写真を見返した。
笑顔はあの日のまま。でも画面の中の彼女は、少し遠い。
それなのに、不思議と温かい気持ちが残っていた。
もしかして、あの子が運命の人だったのかもしれない。
そんな言葉が頭をよぎった。
運命って、劇的な出会いではなく、
「ただ一緒にいて心が穏やかになる人」のことなのかもしれない。
派手な刺激よりも、落ち着く時間。
沈黙すら心地よかったあの車内の空気は、今でも忘れられない。
出会い系は遊びだと思われがちだけれど、
本気で向き合えば本気の縁も生まれる。
偶然出会って、少し距離が縮まり、
そして別れて気づく感情がある。
人生は選択の連続だ。
もしあの時、もう一言踏み込んでいたら?
手を伸ばせば、もう少し近づけたのだろうか。
そんな「もし」が胸に残っている。
だけど後悔だけでは終わらせたくない。
思い出は大切だ。そして未来もまだ白紙だ。
会えなかった半年のあとに連絡が来たこともあった。
時間が経っても切れなかった縁は、きっと意味がある。
運命の人は、ドラマの中ではなく現実にいる。
気づくのは別れたあとかもしれないし、
再会した瞬間に確信するかもしれない。
もしあなたにも心に残る誰かがいるなら、
その感情を大切にしてほしい。
恋は一度終わったように見えても、
小さな灯が残っていればまた動き出すから。
籠原駅の夜風の冷たさも、
ソフトクリームの甘さも、
車のミラー越しに見えた後ろ姿も——
全部、僕の中で輝いている。
そして今でも思う。
運命の人は、あの日別れた彼女だったのかもしれない。


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