2023年の秋。高崎の少林山達磨寺に、気になっていた女の子と行った日のことを今でもよく覚えている。紅葉シーズンと言えば赤やオレンジのモミジを思い浮かべるけれど、その日は特にいちょうの黄色が鮮やかで、境内までの石段に落ちた葉が風でふわりと舞っていた。季節が変わる音が聞こえてくるような、静かで美しい景色。
最初は「近場だし、ちょっと行ってみる?」くらいの軽い気持ちだった。だけど実際に歩いてみると、古い門や達磨堂の朱色、そして散策中に漂う線香の匂いに心が落ち着いていく。彼女は「写真撮ってもいい?」と嬉しそうにスマホを構えて、黄色い絨毯の上に立って笑っていた。その表情が眩しくて、景色よりも彼女ばかり目で追っていた気がする。
途中、出店の甘酒を飲んだり、達磨の絵馬を見ながら「願い事って叶うのかな?」なんて話をした。僕の願いはもちろん一つ。「この時間がもう少し続けばいいのに」。口には出さなかったが、胸の中にそっとしまった。
石段を登りきった所から見える高崎の景色は、少し霞んでいて映画のワンシーンみたいだった。風が冷たく、手がかじかんだので「寒くない?」と聞くと、彼女は小さくうなずいてコートの襟を立てた。その仕草が妙に可愛くて、今でも思い出せる。
帰り道、落ち葉を踏みながらゆっくり歩いた。特別な言葉があったわけじゃない。告白もしなかったし、帰りの車内もゆるい雑談だけ。でも、心の中ではずっとドキドキしていた。「多分、好きなんだろうな」とようやく自覚した日だった。
あれから時間が経った今でも、いちょうを見ると彼女の横顔が浮かぶ。恋が成就したわけじゃない。でも、その季節を一緒に歩いた事実は僕の中にちゃんと残っている。
デートとは、派手な場所よりも歩く距離と心の近さで思い出になるのだと知った。少林山達磨寺の黄色い秋は、今でも僕にそう教えてくれる。


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